この記事では「指示待ち人間」を作り出す方法を説明する。
この記事の目的は「指示待ち人間」を作ることではない。「指示待ち人間」を作る方法を理解することにより、「指示待ち人間を作らないようにする」ことが目的である。
はじめに
この記事での「指示待ち人間」は、「他人の指示がない限り自発的に動かない人」と定義する。
「指示待ち人間」を作る方法は、次の3つがある。
- 提案を却下し無力感を生じさせる
- 主体的に動いた結果に言いがかりをつける
- 心理的安全性を低くする
これらの方法は、人のモチベーションを破壊し、不信感を生じさせ、主体性を抑制する結果となる。
ひとつひとつの方法について、具体的に説明する。
方法1: 提案させて却下する
提案させて却下することを繰り返し、相手を「指示待ち人間」に変えていく方法とその結果を説明する。
方法
提案させて却下する方法は、次のとおりである。
1. 依頼をする
まず、相手に対して何かを依頼する。この依頼は単なる作業指示ではなく、相手が頭を使って考えることも含めた依頼である。例えば、「新しいプロジェクトのアイデアを考えてほしい」や「来週のプレゼンテーションの企画を立ててほしい」といった形である。
2. 具体的な内容を説明しない
依頼の際に具体的な内容を詳細に説明しない。相手が何をすればいいか、自分で考える必要があるようにする。場合によっては、具体化のための詳細な質問にも答えないことがある。これにより、相手は自分で調査したり、アイデアを練ったりする必要が出てくる。
3. 提案を受け取る
相手が時間と労力をかけて提案を準備し、提出する。ここで重要なのは、相手が提案をするために自分の能力をフルに使っているということである。
4. 却下する
相手からの提案を受け取ったら、それを却下する。却下の理由は具体的でなくてもかまわない。「この案はちょっと違う」とか「もっと良いアイデアが欲しい」といった曖昧な理由でも十分である。特に、根拠のない却下であればなおさら効果的である。
結果
提案させて却下することを繰り返すと、次のような結果になる。
1. 無力感を植え付けられる
相手は、自分が考えた提案を簡単に却下されることで、無力感を感じる。特に、「後出しじゃんけん」や「先に言ってよ」という感覚が強くなるため、次第に自分の提案や考えが無意味だと感じるようになる。
2. 意欲を失い主体性がなくなる
このプロセスを繰り返すことで、相手は次第に提案することに対する意欲を失い、自己評価が下がり、無力感を覚えるようになる。
主体的に提案することはなくなり、依頼の回避するようになる。依頼の回避が不可能なとき、相手は当たり障りのない(例えば、省力、依頼人を怒らせずやり過ごす)ような対処に頭を使う。
方法2: 主体的に動いた結果に言いがかりをつける
主体的に動いた結果に言いがかりをつけることを繰り返し、相手を「指示待ち人間」に変えていく方法とその結果を説明する。
方法
主体的に動いた結果に言いがかりをつける方法は、次のとおりである。
1. 自発的な行動を促す
まず、相手に対して自発的に行動するよう促す。これは、相手が自分から進んで提案をしたり、行動を起こしたりする状況を作り出すことを意味する。例えば、「自分で考えてみて」「自分のアイデアを出してみて」といった形で相手に自発的な行動を求める。
2. 行動結果を確認する
相手が自発的に動いて結果を出した後、その結果を確認する。相手は自分の行動や提案に自信を持っている場合が多いため、この段階での対応が重要である。
3. 言いがかりをつける
相手の自発的な行動や提案に対して、理由のない言いがかりをつける。ここでは、相手の努力や成果に対して否定的な反応を示す。例えば、「そんなの全然役に立たない」とか「こんなことをしてどうするの?」といった頭ごなしの否定が有効である。特に、全否定することで相手の自信を大きく損なうことができる。
4. 協力を否定する
相手が協力を申し出た場合にも、言いがかりをつけて非難し、その提案を却下する。例えば、「そんなことしなくていい」とか「そのやり方では全然だめだ」といった形で、相手の協力の意図を無視し、完全に否定する。
結果
主体的に動いた結果に言いがかりをつけることを繰り返すと、次のような結果になる。
1. 主体性や協力性を破壊する
このような言いがかりや否定的な反応を繰り返すことで、相手は自発的に行動することや協力することに対して不安や不満、無力感を感じるようになる。結果として、相手の主体性や協力性が破壊され、次第に自分から提案したり行動したりする意欲を失っていく。
方法3: 心理的安全性を低くする
心理的安全性を低くすることで、相手を「指示待ち人間」に変えていく方法とその結果を説明する。
方法
心理的安全性を低くする方法は、次のとおりである。
1. 非難文化を作り出す
非難文化を作り出すことが重要である。例えば、「なぜ」で責める質問をする。「なぜこんなことをしたのか?」といった攻撃的な質問を繰り返すことで、相手を防御的にさせる。
なお、「なぜ」という質問は、他人に対して「あなた 対 私」という対立の構図を生み出しやすい。しかし、「なぜ」を「なにを」「いつ」「どこで」といった質問に置き換えることで、「私たち 対 問題」という協力的な問題解決の姿勢に変えられる。
2. 行動に対する否定的な非難
やっても非難、やらなくても非難するという状況を作り出す。何をしても否定的な反応を受けるため、相手は次第に何も行動しなくなる。この繰り返しによって、相手は思考を停止し、主体性を失っていく。
結果
心理的安全性を低くすると、次のような結果になる。
1. 言わないほうが安全という雰囲気を醸成される
相手は「言わないほうが安全だ」と感じる。つまり、意見や提案をすることがリスクであると相手が認識する。例えば、意見を述べた人を公然と非難したり、失敗を厳しく咎めたりすることで、この雰囲気が醸成される。
2. 心理的安全性を低くする
相手は、何かを言うこと自体がリスクだと認知し始める。相手は意見を述べることや行動を起こすことに対して不安や恐れを感じ、不信感に満たされる。相手は安心して発言や行動をすることができなくなる。
3. 発言や行動のリスク認識
相手が発言や行動をリスクと認識すると、人は物を言わなくなる。さらに進むと、意見や情報を隠すようになる。これにより、コミュニケーションが減少し、協力関係が崩壊していく。
指示待ち人間の心理
指示待ち人間とは、自分から進んで行動することを避け、常に他人からの指示を待ってから動く人を指す。このような状態になる背景には、次のような心理的要因が存在する。
- モチベーションを破壊されている
- 不信感に満ちており警戒している
- 興味がなくなっている
- 主体性がアダとなる状況だと理解している
ひとつひとつを具体的に説明する。
1. モチベーションの破壊
指示待ち人間は、過去の経験によってモチベーションを破壊されていることが多い。例えば、自分の提案や行動が繰り返し否定されたり、無視されたりすると、次第に自分から動く意欲を失ってしまう。
2. 不信感と警戒心
こうした人々は、不信感に満ちており、周囲に対して警戒している。過去の経験から、自分の行動がどのように評価されるかを悲観的に予測し、何をしても否定的な反応が返ってくるのではないかという恐れや不信感を抱いている。
3. 興味の喪失
指示待ち人間は、興味がなくなっていることが多い。最初は何かをしたい、やってみたいという気持ちがあったとしても、繰り返されてきた否定的な言いがかりによって、その興味は次第に薄れていく。
4. 主体性がアダとなる状況の理解
彼らは、自分の主体性が逆に不利になると理解している。自分から行動を起こすことが評価されないばかりか、否定される、非難される、場合によっては意図的に潰されることを経験しているため、主体的に動くことを避けるようになる。
人間は本来指示待ちではない
人間誰しも初めから指示待ちであるわけではない。何かをしたい、やってみたいというのは、人間の根幹にある欲求である。ところが、結果が伴わないケースが続くとどうなるだろうか。
- 自己起因の場合:失敗が自分の原因であると理解できれば、反省し修正を試みることができる。
- 他人起因の場合:失敗の原因が他人にある場合、特に自分の行動が評価されず、否定的な反応ばかりが返ってくる場合、人は行動すること自体を避けるようになる。
やっても評価されないだけならまだしも、やっても非難される、やっても潰される状況が続くと、次第に何もしない方が安全だという心理が働くようになる。こうして、指示待ち人間が生まれるのである。
おわりに
「指示待ち人間」とは逆に、「主体的な人間」であることが自身にとっても周囲にとっても良い結果を生むと私は信じている。そのため、この記事で説明した方法を実行することは避けたい。もし既に実行していると気づかれた場合は、今すぐ中止することをお勧めする。
自分自身の行動や態度はコントロールできるため、これらを避けたり注視することは可能である。しかし、他人が同様の行動を取っている場合、その行動を直接コントロールすることは難しい。
もし話し合いが可能な相手であれば、対話を通じて相互理解を深めることが望ましい。相手の視点を理解し、共感を示すことで、建設的な関係を築くことができるだろう。しかし、話し合いが難しい相手の場合、相互理解に至る道筋を見つけるのは容易ではない。そのような状況では、主体的な行動を取るのが難しくなることもある。
私がたどり着いた結論は、時には「指示待ち人間」であることが最も無難な選択肢である状況もあり得る、ということである。主体性を発揮できる状況を作るために試行錯誤した結果、それが難しいと判断したためだ。これは非常にネガティブな判断かもしれないが、プラスが望めない状況において、少なくともマイナスをゼロにすることが最善であると苦渋の決断をしたのだ。
かつて私は「指示待ち人間」を軽視していたが、特定の状況下ではそのような態度が避けられない場合もあることを理解した。異なるコミュニティや環境では、同じ人間が驚くほど主体的に行動できることも経験している。これは、環境や周囲の態度が個人の主体性に大きな影響を与えることを示している。
私たち一人ひとりが、他者の主体性を尊重し、支援する環境を作ることが重要である。そうすることで、より多くの人々が自分の能力を最大限に発揮し、より良い成果を生み出すことができると信じている。