
2023年の春ころから、企業の経営層と従業員の間で、出社回帰の攻防が続いている。2024年になっても多様性を無視した強制出社の悲報が止まらない。
この記事では、出社回帰の主な悲報や、その横暴に対する人々の意見に関してキュレーションし、考察した。
理由なき出社強制の痛々しさ
かつてはリモートワークを推進していたはずの企業も、人がかわったようにリモート廃止に取り組み始める事例が発生している。しかも、論理的な廃止の理由は見当たらず、経営層が個人の感想を一方的に押し付けている傾向があるようだ。
人事評価による脅しと従業員離れ
2022年からリモートワークを支持していた企業が方針を一転。手のひら返し、2024年3月に「リモートワーカーは昇進させない」と通達する暴挙に出た。
やれやれ、といった悲報だ。
馬鹿げた出社回帰(出社怪奇)は、日本だけでなく海外でも発生してるんだなと。
また、出社させる理由が痛々しい。
「出社するとコラボレーションやイノベーションが起こる」
2020年春のリモート後は「コラボレーション」できなかったんかい!リモート前は「イノベーション」とやらが、そこら中の企業でドッカンドッカン起こっていたんかい!
……んなわけねーだろ!
と、ツッコミたくなる。
リモート前後の違いを思い出せないのだろうか?
今は2024年夏。経営層の記憶喪失にも程があるでしょ。4年前だよ?
少なくともわたしの周りでは、リモート前と後で、何ら変わらない。「コラボレーション」は普通にできるし、「イノベーション」はそう起こらない。実はリモートかどうかなんて、まるで無関係なのだ。
「出社させたい少数の経営幹部」と「在宅を希望する多数の従業員」という構図は世界で共通のようだ。
人のまばらなオフィスでリモートワークするのも共通。
本当に痛々しい。
減給や非昇進を打ち出してまで、必死に出社させようとする。
なぜそこまで……と呆れるくらいだ。
在宅の快適さと問題のなさが世界中でバレてしまった今、いくら何を言おうと納得のいく論理的な出社の理由なんてない。
だからこそ論理的な理由なく、短絡的に出社しろと、ただ命令するのだろう。
出社によるメリットが具体なデータなどで論理的に示されない以上、もはや幼稚な感情論にしか思えない。
出社の強制と退職と
実は、リモートワークは人事評価に影響すると脅すことで出社させようとした企業は、昨年2023年にもあった。まさに「原因と結果」と言える。
- Amazonがオフィス復帰のため従業員の一部に転居要請へ(2023年7月24日)
出社回帰したいAmazonの愚行。 - AmazonのCEOがリモートワークを続ける従業員に「おそらくAmazonではうまくいかない」と警告(2023年8月29日)
出社回帰したいAmazonの迷言。 - アマゾン従業員の退職が増加。理由の多くは「オフィス出社の強制」「人を大切にしない姿勢」(2023年12月11日)
上述の愚行と迷言の結果。
2023年夏の悲報
2023年の夏は、同様の悲報が相次いでいた。
リモートワークの増加で急成長を遂げたZoomが「週2回は出社するように」と従業員に要求 (2023年8月8日)
リモートワークを支えるインフラを提供する企業が、まさかの逆行と退行。
広報の声明「最も効果的であると私たちは信じている」を見てもわかるとおり、具体なメリットの提示などなく「信じる」といった感情論にすぎない。
デジタルトランスフォーメーションを推進する立場のはずの企業が出社をルール化した話と似ている。
parupuntist.hatenablog.jpGoogleが完全リモートワークを原則禁止して週3日は出勤することを勤務評価に含める方針(2023年6月9日)
こちらもトップダウンの号令で、CHRO(最高人事責任者)の個人的な感想が起因の模様。出社が勤務評価に影響するという「脅し」を使った強制の先駆者だ。
「出社」か「在宅」か二元論と、それに基づく「ハイブリッド」
「出社」か「在宅」か二元論と、それに基づく「ハイブリッド」という論調が目立つ。
「協議して最適なもの主体的に選べる」といった「働き方の多様性」には触れず、おそらく認識していない。
「多様性からの逆行と退行」だ。世界は進化できなかったのか?
働く人々の実態
働き方の多様性への無自覚や無理解により、多様性を安易に否定し、全員一律を短絡的に強制する企業が続出している。厳密には「企業が」というよりは、その企業で権限のある一部の人間が、と言ったほうが良い。多様性を尊重するフリをしつつ、実は自分と異なる価値観の者やマイノリティーは軽視するという本音を、身をもって表明している。
理由なき出社強制の理不尽と退職増
- 週5出社“逆戻り”で企業と深い溝。「リモート廃止の理由がわからない」社員3人の悲痛な訴え(2024年2月8日)
20代、30代、40代の女性ワーカーへの匿名ヒアリング結果。
週5日出社に強制回帰。やはり会社からの明確な理由の説明なし。子育て中の従業員だけでなく10年超の中堅も離職。会社側のやめさせる意図さえ勘ぐる。
皆が気づいてしまったリモートワークにパラダイム・シフトできない会社が「一時的」「特例」とみなそうとする浅はかさは、回帰に取り組む多くの企業で共通のようだ。
出社回帰したら半数以上は転職を考える
日本全国の20〜65歳のリモートワーク経験者の男女1044名へのインターネット調査結果(2023年11月10日~13日に調査を実施)
「リモートワークから出社に会社の方針が変わったら転職を考えるか?」というアンケート。
「元の生活に戻るだけなので受け入れる」と(積極的か消極的かは不明だが)回答した人は43.9%と半数弱。つまり、56%の半数以上が「転職を考える」という結果だ。56%の意見を無視して、仮にリモートを廃止したら、それは愚行だろう。
また、この56%の内訳も、「100%リモートワークがいいので転職を考える」の回答が12.3%、「出社とリモートワークが半々なら転職は考えない」の回答が25.5%、と、37.8%(約4割)は「出社率は半分未満」と回答していることになる。
この結果から、当面はハイブリッドの風潮が続くのではと推測する。
デメリット(ストレス増と生産性低下)を受け入れての出社
新型コロナウイルスの5類移行後に出社が増えた大企業のハイブリッド勤務者109名へのインターネット調査結果(2023年6月12日~13日に調査を実施)
出社に意義を感じるのは7割超だが、出社の増加による“ストレス増”は8割以上。「生産性が上がらない」とした人も7割弱。
つまり、出社の意義が、ただの感情論(へのお付き合い)に過ぎない鱗片が浮き彫りに。
もし仮に意味なく出社しているのなら、せめて意味があるとでも思わなければ到底やってられない。単なる自己否定の回避。そんな心理も働いているのではと推察する。
子育て世代の葛藤と転職
20~50代の男女1085人に対する2023年6月2日~18日のインターネット調査結果。
自分が子育て中だった時代を思い返すと、本当に事情や気持ちがわかる。わたしの頃にリモートワークができていたら、どんなに公私とも効率が良く、どんなに両立できたことか!
わたしは管理職だが、上から出社要請の波が来ようと部下には、無意味なら出社はやめてくれと、心から思っている。そのため、実際、部下に出社を強制することはない。
しかし、同年代でも仕事一筋できた人たちは(具体な理由なく、それがいいという感情論で)出社させたがっている。
世の中の動向
出社回帰に関する世の中の動向も俯瞰してみる。
リモート回数のゆるやかな減少
- IT企業のリモートワークは今も続いているのか?完全出社必須なら62%の従業員が離職を検討(2024年4月5日)
2024年春の出社回帰について、大手~中堅のIT企業の動向。
都内のリモートワーク実施率では、(従業員30人以上と母集団が小さそうなのは微妙だが)週3日以上のリモートが2022年2月が51.2%だったのに対して2024年2月は40.1%と減少。
測定時期が2点と少ないので傾向を語るには不十分な気もするが、リモート回数が以前より微減してのは実感と一致する。
理由なき出社への反発と離職
- リモートワーク革命は死んだ? 米国で広まる出社回帰 社員は出社命令に反発、半数が辞めた会社も(2023年9月26日)
アメリカで広がる出社回帰の風潮を懸念する記事。
企業が求める出社回帰の理由はやはり感情論にすぎず、一部の人の一部の体験を誇張しているようだ。
ゆるやかな出社回帰の風潮
- 「オフィス回帰」3か月も、出社ブームは頭打ち?街には本当に人が戻ったのか(2023年7月31日)
23年5月に新型コロナウィルスが5類に移行したことを契機に始まった出社回帰の風潮は、いったん夏に緩やかになったことがある。
その後も(おそらく企業幹部は様子を見ながら)緩やかに続いている。
参考情報
「リモートワーク」、特に「在宅勤務」には生産性や地球環境の面でメリットがあるという報告もある。
リモートワークは生産性を損なうのか?(2023年10月3日)
リモートワーク、特に在宅勤務で生産性が上がるという記事とその根拠。
常にリモートワークをしている人はオフィスで働く人と比べて二酸化炭素排出量が約半分という研究結果(2023年11月18日)
在宅勤務は脱炭素にとても貢献するという記事とその根拠。